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◆水俣病特別立法について

2009年3月27日付メッセージ

はじめに

 自民、公明の与党は去る3月13日、衆議院に対して「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」を提出した。
この法案は、 @被害者救済、 A最終解決、 Bチッソ分社化
を内容とするものであるが、私は「チッソ救済・幕引き法案」ではないかと評している。

与党法案は全体で40条あるが、被害者救済はわずか1条のみで、ほとんどがチッソ分社化を内容とし、チッソは利益が期待できる液晶部門を子会社化して存続させ、親会社であるチッソ本体は消滅させてしまう形で救済し、被害者らに対しては3年程度で救済の窓口を閉鎖してしまうという。
公健法上の地域指定解除まで踏み込んでいる。与党の基本的視点は、要するに95年政治解決に漏れた人たちがいるので、こうした人たちを補充的に救済することで決着を図ろうというものである。

 しかし95年時点と現時点では状況が全く異なる。95年当時では、
@国の法的責任は確定していない。
A対象者は認定申請を棄却された者で水俣病被害者ではないとされた。
ところが現時点では、
@国の責任は最高裁で確定した。
A対象者は環境省も広く水俣病被害者と認めている。
この2つの点で被害者側にはより有利に働いているのに、低額な救済策でお茶を濁そうというのでは国民の了解は得られない。私は、被害者救済について、最高裁判決を極力尊重しながら経緯も含めてバランスをとった解決を考えなければならないとは考えているが、チッソ分社化にはとうてい賛成できないことを表明している。

 与党側は、簡単には譲歩しないなどと強硬な姿勢を示してはいるが、他方では、何とか民主党をはじめとして野党も引き込んで話し合いで法案成立を目指したいとも述べている。
また衆議院の3分の2の強行再可決までは考えていないようである。

 被害者団体は、ほとんどが強く与党法案に反発をしている。私の元にも与党法案に対する反論の声明などが届けられているが、やはりとりわけチッソ分社化と地域指定解除には反発が強い。

 

民主党の取り組み・・・最高裁判決を視座に 

 さて民主党は、私が水俣病問題対策作業チームの座長になっており、昨年から引き続いて被害者救済特別立法の作業を進めてきていて、国会提出の時期を図っている。
現在の与野党逆転の国会ではお互いに突っ張っていても法律は成立しないし、また麻生政権は超低支持率でいつ解散になってもおかしくない。被害者救済の思いは与野党とも共通ではあろうが、総選挙をにらんで政局がらみのなかで法案の取扱いの見極めが必要だ。

 与野党協議の場面が重要ではあるが、その際の最終的な力関係は、どちらの案が被害者を含めた県民、国民の声を味方につけられるかにかかっている。

 水俣病は、これまで何度も被害者の足元を見て幕引きをしようとしてきた歴史でもあった。有名なものでは1959(昭和34年)の見舞金契約、1968(昭和43)年の公害認定、1978(昭和53)年の県債方式によるチッソ支援策の開始などである。
このたびごとに水俣病問題は終わったと宣伝された。しかし、最高裁判決という重い判断が示された今回こそ蓋をしての幕引きではなく、公害の原点と呼ばれる水俣病の歴史にふさわしいものにしていかなければならない。

 

民主党の特別立法

 民主党の特別立法は、基本的には最高裁判決を最大限尊重しようというものであり、そのポイントは以下の点である。

1 水俣病被害の全貌を明らかにするための実態調査

 水俣病発生当時、汚染地域に居住歴がある人口は約47万人だというのに、国は一度も本格的な実態調査をしていない。熊本県は、2004年11月に約47万人に対する健康調査及び八代海域の環境調査を打ち出した。見込み経費として10億円弱である。これによってメチル水銀が住民や海域にどの程度の影響を与えているかを調査するものであり、尊重したい。

2 医療費及び療養手当の支給

 これは被害者の最低限の要求でもあり、与党案でも盛り込まれていて、早急に手当が必要である。医療費及び療養手当の支給については、特別措置法として恒久的な仕組みが必要である。この措置法の主眼点は次の通りである。

@ 救済対象者

 原則として四肢末梢性など一定の感覚障害を有する者を救済対象者にする。これには最新の医学的知見をも加味し、二点識別覚異常、全身性の感覚障害等をも含める。
与党法案では四肢末梢優位の感覚障害に限定しているが、これでは最高裁判決を無視するものといわざるを得ない。

A 診断書

 主治医の診断書を尊重する。ただし診断書は統一した書式を採用し、必要な診断項目は統一することで診断項目がバラバラにならないように配慮する。与党案のような公的診断には限定しない。

B 療養手当

 療養手当については、公健法と同等のものとする(入通院日数によって月額23,000円〜35,000円)。与党案では1万円であるが、これまでの医療手帳での約2万円とも整合性がとれない。他の疾病等によって支給されている手当では、おおむね3万円以上となっている。例えば、原爆症、HIV、医薬品副作用被害等の療養手当または健康管理手当はすべて月額3万円を超えている。

3 一時金の支給

 与党案では、特に一時金の金額が注目を集めたが、その決め方はあまり合理的ではない。最終的に150万円となったが、途中、50万円だとか100万円だとか駆け引きがなされ、バナナのたたき売りのような決め方であった
。しかし一時金とは最高裁判決を踏まえれば賠償金なのであるから、司法判断を踏まえた金額の支給がなされるべきである。

4 費用負担について

 一時金にしてもその他の支給分もいったんは国が負担して被害者に支給し、その後加害企業に求償することが妥当な処理と思われる。
与党案では,PPPの原則を縦にとってチッソに支払わせようとしてチッソに譲歩を重ねる結果となっているが、ここは国も責任を断罪されているわけであるから、加害者の責任のなすり合いを容認すべきではない。いったんは国が被害者に支払い、その分をチッソに求償すればよい。与党案だと建前ではチッソが被害者に支払うが、チッソは資金不足であるので結局は国、県がチッソに貸し付けせざるを得ない。そうなると、国とチッソとの関係は、与党案だと貸付金、民主党案だと求償金、ということでいずれにせよ債権債務ということだから、それほど大きな違いはない。
実際のところ、95年政治解決の時には317億円チッソの貸し付けをしているが、その後270億円は免除しているので、結局国が負担したわけである。こうした前例をも考慮すると、まず国が支払うことにさほどの問題があるとは思えない。

 総合対策医療事業では国と関係県との折半となっているが、国が最高裁判決で責任を問われたこと、財源の安定性等を考慮すれば国の負担が適切であるし、熊本県は別途、被害者に対する様々なケアを行うことでその責任を全うすることがふさわしい。

5 受付手続き

 与党は最終的幕引きということを画策しているので、3年程度で受付も終了し、公健法の認定申請や裁判も取り下げを要求しているが、民主党案では窓口を広く開けておくことを考えており、被害者に苦渋の選択を迫るようなことはしない。
また与党は公健法の地域指定解除を条文に盛り込んでいるが、とんでもないことであり、民主党案ではそうした幕引き的なものを入れることはしていない。

 

終わりに

 水俣病は公式確認から半世紀以上も経過しているが、複雑な仕組みのおかげで、利害関係も複雑になり、同じ被害者どうしがいがみ合うという悲劇も発生した。不幸な歴史が積み重なっているともいえるが、この貴重な経験を世界に発信していくためにも様々な観点で常に検証していくことが必要だ。
水俣病の歴史は、無理矢理に蓋をしようとしても、結局、その蓋をこじ開けて何度でも解決のやり直しを求め続けてきた歴史がある。幕引きではなく被害を直視し真摯に被害者に向き合わないと、裁判での争いが続き、いつまでも水俣病問題は終わらない。単純に与党案に乗ってしまえば、またいつか来た道を繰り返すことになる。この点を肝に銘じてさらに取り組んでいきたい。

 いずれ与野党協議が開始されると思うが、勝負の決め手は被害者を含めた世論の力ではないか。どちらの案がより説得力を持つのか、勝負が迫ってきている。